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伝承

 Orrin Evans 「The Evolution Of Oneself」を聴いている。

マッコイやハンコックに影響を受けたピアニスト、と書くとそのサウンドやボイシングの想像がつくだろうが、特筆すべきはグローバーワシントンJrの曲を取り上げ、ラップも取り入れている点。

現在41歳のこのピアニストは、私がニューヨークに行った1992年では16歳。

まだバスケットボールにうつつをぬかす高校生だったはずだ。トミーフラナガンが元気でルイスナッシュが売れっ子だったこのころ、少年のOrrin Evansはどんな音楽を聴いていたのだろうか。

 おそらくはラップ、Hip Hopだったはずだ。

ロイハーグローブはメインストリームのTpとしてデビューしたのち、ヒップホップを取り入れ自分のアイデンティティを表明してJazzファンを驚かせたが、現在のミュージシャンはこのようなカミングアウトの方法はとらない。

 最初から自分のなかにあるラップ、Hip Hopのサウンド、リズムを軽々とJazzと織り交ぜ、演奏するのだ。

歴史的な変換期をリアルに生きる青年達は、歴史の中で自分の人生を捉えない。そのとき流れている音楽が、雰囲気、気分がリアルなのだ。

日本のSEALDsがそうだったように。

 Jazz を「こんなやり方もあるんだ」として方法論の一つととらえる認識。

色を塗り替える作業は着々となされてきたようだ。

毎日たんたんと過ごしてきた自分の時間の流れの横で、異物感と発見、挫折、幻滅、怒りなどの激しい刺激により形作られた「若者の時間」が逆巻いていたことに気づいた。

 では大人の振る舞いとはなにか。

 評価、判断は保留する。まず、見つめ自分がどう感じるかを味わう。

おそらく気分が悪いことのほうが多いはず。揺れへの耐性が試される。

揺れながら重心をどこにおくかをチェックし、「当面」やっていく方法を決める。

『当面やっていく方法』をその都度変化させ、また「当面」やっていく。

辛いが、これかも知れない。

Hip HopによりJazzの色を塗り替えようとする青年達は、マイルス、コルトレーンなどの命日に酒を飲み、「弔っている」人には許せない人種かも知れない。

かれらの演奏する後ろ姿を捉えつつ、自分が聴いて演奏してきた音楽を見つめ直す必要がでてきた。

「繰り返しだ」と断言する評論家に、まだなされていない余剰スペースがJazzの領域にあることは理解できないだろう。

 リアルに感じることをJazzに導き入れ、そのリアルがどう色を変え、輝きを変化させるかを

検証すること。かなりパーソナルな行為だ。十人十色のやり方になるはず。

このJazz的な時間に喜びをいつまで見いだせるかが、その人のJazz的資質なのだろう。

 そして大人としての資質でもあるだろう。

 
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